赤ちゃんドラゴンはクローゼットの奥に寝かされていました。おばあちゃん曰く、「弱った動物は静かで暗い所を好む」のだそうです。
カゴに掛けてある布をそっと取ってみると、気のせいか赤ちゃんドラゴンは一回り小さくなっているように見えました。皮膚もさらに皺が寄って、黒ずんでいるように見えました。触ってみると、体も冷たく、固くなっています。何の知識もないリューイにも、赤ちゃんドラゴンがかなり弱っていることがわかりました。
「おばあちゃん、この子は死にかけているの?」
リューイはそっとおばあちゃんに訊ねました。
「リューイ…」
おばあちゃんはリューイの肩に手をそっと置きました。
「残念だけど、このまま何も食べなかったら長くもたないでしょうね…」
おばあちゃんは昨日、リューイが帰った後もなんとか赤ちゃんドラゴンを助けようと、いろいろと手を尽くしましたが、赤ちゃんドラゴンは何も受けつけませんでした。
「昔の人は、黄色い竜は金を食べるとか、赤い竜は火を食べるとか言ったけれど、この子は何を食べるのかしら。ねえ、リューイ?」
おばあちゃんは困ったようにリューイを見詰めました。
「灰色だから…灰?」
おばあちゃんは無言で肩をすくめました。
「そんなわけないよね。」
二人は揃って溜息を吐きました。
「いったい、何を食べるんだろうね…」
二人の視線の先では、赤ちゃんドラゴンが寒そうに体を丸めていました。
赤ちゃん竜はリューイが持ってきたお菓子も木の実もキノコも赤ちゃん竜は全部、食べませんでした。だけど、まだ何か試していないものがあるはず。この子はまだ赤ちゃんだから、赤ちゃんには…そうだ!おっぱい!赤ちゃんはおっぱいを飲むんだっけ!ベニーの赤ちゃんも弟のフューイも、赤ちゃんはみんなママのおっぱいを飲んでいました!
――ベニー!
そこまで考えて、リューイは初めてベニーがいないことに気が付きました。
「あっ!」
リューイは思わず大きな声を出しました。
「どうしたの、リューイ?」
おばあちゃんが心配そうに訊ねます。
「ベニーがいない!途中まで一緒にいたのに!」
「まあ、ベニーちゃんって誰なの?」
おばあちゃんはベニーが人間だと思っているようです。
「猫だよ!この子にお乳を飲ませようと思って連れて来たんだよ!」
「そうなの。リューイは優しいのね。」
おばあちゃんは、リューイの頭を優しく撫でてくれました。
「でも、竜は卵生だからお乳は飲まないんじゃないかしら。」
「らんせい?」
「そうよ。鳥のように卵から生まれる動物は、卵生動物というのよ。卵生動物はね、お乳を飲まないの。蛇やトカゲも卵生動物だから、お乳を飲まないわね。この子も卵から生まれたはずだから、きっとお乳を飲まないと思うわ。」
「卵生動物…」
リューイががっくりと肩を落としました。
そのときです。コツコツと窓に何かが当たる音がしました。黄金虫が窓にぶつかったときのような小さい音でした。
リューイが窓のほうに目をやると、そこには先ほどの妖精たちがいました。妖精たちは、一旦はリューイから逃げ出したものの、途中で気になって引き返し、こっそりリューイのあとをつけてきたのでした。
二人は窓の外から赤ちゃん竜を見つけると、大声でリューイを呼びましたが、リューイはまったく気付きませんでした。そこで二人は何とかしてリューイに振り返ってもらおうと、先程から何度も窓に体当たりをしていたのです。
何度も思い切り体当たりをして、二人の肩が痛くなってきた頃、ようやくリューイが振り向きました。


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