1. ある日、森の中♪ 

ドラゴンの赤ちゃん、拾いました

ある日の午後、森の中を歩いていたリューイは、微かな鳴き声を耳にして、ふと足を止めました。
ミュウ、ミュウ…ミュウ、ミュウ…
――んっ?子猫?!
リューイは自分の耳を疑いました。ここは森の中です。こんな所に猫がいる訳がありません。
この森は良く手入れがされており、適度(てきど)に日差(ひざ)しも差(さ)し込(こ)んで明(あか)るく、人が通(とお)れるような道も造(つく)られてはいますが、それでも滅多(めった)に人が通(とお)ることはありません。猫は人がいない場(ば)所(しょ)では生(い)きていけません。
また、森の中には野生(やせい)動物(どうぶつ)も多(おお)いため、成(せい)猫(びょう)でもかなり危険(きけん)な場所(ばしょ)です。ましてや生(う)まれたての子猫など、肉食(にくしょく)動物(どうぶつ)に捕(つか)まったら、柔(やわ)らかい肉(にく)まんのようにあむ、あむと二口(ふたくち)ぐらいで食(た)べられてしまうでしょう。

リューイはパンの入(はい)ったカゴを抱(かか)え直(なお)しました。今日(きょう)はお母さんに頼(たの)まれて、森の中に住(す)むおばあちゃんにパンを届(とど)ける予定(よてい)です。
――でも、どこにいるのかな?
赤ずきんちゃん…ではなく、リューイは立(た)ち止(ど)まって、じっと耳を澄(す)ましました。
――子猫だったら、助(たす)けてあげなくちゃ!
微(かす)かな鳴(な)き声(ごえ)は子猫のように聞(き)こえますが、子猫にしては声がしゃがれているような気(き)もします。しかし、細(ほそ)い鳴(な)き声(ごえ)はリューイが足を止(と)めた途端(とたん)に、止(や)んでしまいました。
――もしかして、僕(ぼく)が怖(こわ)い?
リューイはキョロキョロと辺(あた)りを見回(みまわ)しました。何者(なにもの)かが何処(どこ)かから、見ているような気配(けはい)がします。気のせいかでしょうか。リューイはそっとその場(ば)を離(はな)れました。
しかし、鳴(な)き声(ごえ)の主(ぬし)はリューイが歩(ある)き出(だ)すと、引(ひ)き留(と)めるかのように再(ふたた)び鳴(な)き出(だ)すのです。
――この辺(へん)かな?!
しかし、リューイが目星(めぼし)を付(つ)けた辺(あた)りに近(ちか)づくと、やはり鳴(な)き声(ごえ)は止(や)んでしまいます。
――見(み)つけて欲(ほ)しいのか、見(み)つかりたくないのか、どっちなんだ?!
リューイは困惑(こんわく)しました。謎(なぞ)の生物(せいぶつ)は生(い)きることを強(つよ)く望(のぞ)みつつも、不安(ふあん)と恐怖(きょうふ)で誰(だれ)にも近寄(ちかよ)って欲(ほ)しくないようでした。きっと人間(にんげん)が怖(こわ)いのかもしれません。けれども、子猫をこんな森の中に残(のこ)していく訳(わけ)にはいきません。もしも、子猫だったら、絶対(ぜったい)に家に連(つ)れて帰(かえ)ろうと、リューイは心(こころ)に誓(ちか)いました。――どこ?

こんな事(こと)を繰(く)り返(かえ)すうちに、気(き)が付(つ)けばリューイは森の奥深(おくぶか)くまで足を踏(ふ)み入(い)れていました。
木の上からリューイを見ていた小鳥(ことり)たちも、囀(さえず)るのを止(や)めて事(こと)の成(な)り行(ゆ)きをじっと見守(みまも)っています。
リューイは神経(しんけい)を集中(しゅうちゅう)させて耳を澄(す)ましましたが、何度(なんど)聞(き)いても声のする方向(ほうこう)が分(わ)かりません。森の中では、音の方向(ほうこう)が掴(つか)み辛(づら)いのです。
ミュウ、ミュウ…ミュウ、ミュウ…
またしても、謎(なぞ)の生物(せいぶつ)が鳴(な)き出(だ)しました。子猫の鳴(な)き声(ごえ)にしては可愛(かわい)くないような気がしますが、鳴(な)き過(す)ぎて声が枯(か)れてしまったのかもしれません。もしかしたら、猫に似(に)た別(べつ)の動(どう)物(ぶつ)かもしれません。しかし、この森に猫に似(に)た動物(どうぶつ)が棲(す)んでいるという話は聞(き)いたことがありません。
――これはまさか…新種(しんしゅ)の動物(どうぶつ)?!
だとしたら、自分(じぶん)が第一発(だいいちはっ)見者(けんしゃ)です。「10歳(さい)の少年(しょうねん)、お手柄(てがら)!森の中で新種(しんしゅ)の動物(どうぶつ)を発見(はっけん)!」新聞(しんぶん)の見出(みだ)しが頭(あたま)の中に浮(う)かびます。
――でも、やっぱり珍(めずら)しい動物(どうぶつ)より、子猫がいいな…
リューイはパンの入ったカゴを地面(じめん)に置(お)くと、本格的(ほんかくてき)に子猫を探(さが)し始(はじ)めました。よく耳を澄(す)ますと、子猫の鳴(な)き声(ごえ)に混(ま)じって、微(かす)かな水音(みずおと)が聞(き)こえきます。そう言(い)えば、この近くには小川(おがわ)が小川(おがわ)があったような気がします。
――小川(おがわ)の近(ちか)く?
リューイは胸(むね)を躍(おど)らせました。

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