20. お泊り会♪ 

ドラゴンの赤ちゃん、拾いました

薪割りを終えたユストとリューイが玄関のドアを開けると、部屋の中から暖かい空気と一緒に(こう)ばしい匂いがどっと流れだしてきました。
「うわ~、今日はご馳走(ちそう)だね!クリスマスみたい!」
テーブルの上にずらりと並べられたご馳走に、リューイが歓声(かんせい)を上げました。メインディッシュは七面鳥(しちめんちょう)の丸焼きでした。リューイが大好きなビーフシチューもあります。その他にも様々な料理が、所狭(ところせま)しと並べられていました。美味しいご飯に大好きなユスト、今日はなんて良い日でしょう。
――こんなご馳走が食べられるのもユストが泊まってくれるお(かげ)だね♪
今日はユストがお(とま)りなので、ご飯を食べた後も遊ぶ時間がいっぱいあります。リューイの目には部屋中が輝いて見えました。
――ゲームもしたいけど、プロレスごっごもしたいなあ。ユストはプロレスごっご、好きかなぁ?
考えただけで体がムズムズしてしまいます。得意(とくい)()()りを、是非(ぜひ)ともユストに披露(ひろう)したいものです。お父さんはリューイに飛び蹴りをされると、いつも「あっ」と変な声を()らして動けなくなってしまうのです。ユストだったらそんなことはなさそうです。リューイはお父さんの変な声と動きを思い出して、ププッと笑いを()らしました。
「どうしたんだい、リューイくん。一人で笑ったりして。」
「うふふっ」
「ん?」
ユストは(ひざ)をかがめて、聞いてくれます。
――飛び蹴りは絶対(ぜったい)ダメってお母さんは言うけど…ちょっとぐらいならいいよね。
ユストなら何をしても怒らなそうです。
「ううん、なんでもない。」
リューイはククッと笑いを()(ころ)しました。

いろいろと迷った(すえ)に、おばあちゃんは夕食の献立(こんだて)を七面鳥の丸焼きとビーフシチューにキノコのキッシュと決めました。もちろん、パンは焼き立てです。デザートは野いちごのパイとマロングラッセにしました。
長旅では滅多(めった)に温かい料理など食べられなかったことでしょう。明日には(たび)(そら)に戻ってしまうユストです。少しでも美味しい物を食べさせてあげたいと、あれやこれやと考えているうちに、気が付いたらご自慢(じまん)貯蔵庫(ちょぞうこ)にある食材をほぼすべて使っていました。
――それにしても、七面鳥を塩漬(しおづ)けがあってよかったわ。本当にあのときはびっくりして、死ぬかと思ったけど。
七面鳥を焼きながら、おばあちゃんはあの(・・)とき()のことを思い出していました。偶然(ぐうぜん)できこと(できごと)ではありましたが、この七面鳥はおばあちゃんが誰の力も借りずに初めて自分で仕留(しと)めた獲物(えもの)でした。生まれて()(かた)(じゅう)など(さわ)ったことのないおばあちゃんが、(よわい)七十にして獲物(えもの)仕留(しと)めたのです。なかなかやるではありませんか。
――あのときの私、エライ!
おばあちゃんは心の中で自画(じが)自賛(じさん)しました。

その夜の食卓(しょくたく)はとても(にぎ)やかでした。妖精たちは元来(がんらい)、おしゃべりな生き物ですが、その夜はいつもに()をかけておしゃべりでした。リューイも妖精たちに()けじとしゃべったので、おばあちゃんは三人の相手をするのが大変でした。ユストはおばあちゃんの手料理(てりょうり)舌鼓(したつづみ)を打ちながら、みんなの話に相槌(あいづち)を打ったり、笑ったりしていました。なかなか良い食べっぷりです。ユストの食べっぷりに()られたのか、リューイも今夜はすごい食欲です。
――ムフ~、幸せ…
リューイはビーフシチューを一口頬張(ほおば)ると、目を閉じてじっくりと味わいました。口の中で肉がホロホロと()けてなくなります。
――やっぱり、おばあちゃんのビーフシチューは天下一品(てんかいっぴん)だね!
リューイがユストをちらりと見ると、ユストも美味しそうにビーフシチューを食べていました。
「リューイくんが言うとおり、おばあちゃんのビーフシチューは天下一品ですね。今まで食べたビーフシチュー中で一番、美味しいです。」
リューイの考えていることがわかったかのように、ユストが口を開きました。
「あら、ありがとう!お世辞(せじ)でも(うれ)しいわ。」
おばあちゃんの顔が思わず(ほころ)びました。料理の腕を()められたことは一度や二度ではありませんが、それでも()められれば嬉しいものです。
「ねえ、ねえ、大勢(おおぜい)で食べるって美味しいね!」
その台詞(せりふ)を聞くのは今日、何度目でしょうか。おばあちゃんとユストは同ときに吹き出しました。
「だって、本当なんだもん!」
リューイはぷうっと(ほお)(ふく)らましました。
「そうだね。リューイくんの言うとおりだよ。」
ユストは(なだ)めるようにリューイの頭を()でました。
「リューイったら。(うるさ)くてごめんなさいね、ユストさん。いつもはここまで煩くないのよ。今日はユストさんが泊まってくれるので、嬉し過ぎて大はしゃぎ。」
申しわけなさそうなするおばあちゃんに、ユストは笑顔で答えました。
「ちっとも(うるさ)くなんてありませんよ。リューイくんが言うとおり、食事は大勢(おおぜい)で食べたほうが美味しいですね。」
リューイの人見知(ひとみし)りしない性格のお蔭で、子供(こども)()れしていないユストでもすぐに()()けられた気がします。よく知らない人達との食事も、今日は驚くほど気が楽です。
「ユストさんは本当に子供(こども)()きなのね。絶対に良いお父さんになりますよ。」
赤ちゃんドラゴンのこともあって、おばあちゃんはユストが良い父親になると信じて疑わないようでした。

その一言(ひとこと)はコトリとユストの胸に落ちて、小さな細波(さざなみ)を立てました。天蓋(てんがい)孤独(こどく)の星の下に生まれた自分に、父親になる日なんて来るのでしょうか。
――家族…
そのことを考えるとき、思い浮かぶのはただ一人の女性でした。
――あの人は誰と結婚するのだろうか…
女王が他の男と結婚することを考えただけで、ユストの胸は苦しくなるのでした。

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