23. 真夜中の大運動会

ドラゴンの赤ちゃん、拾いました

収穫(しゅうかく)したサンザシの実をリューイたちが台所に持っていくと、おばあちゃんはそれをきれいに洗って、(たね)を抜き、串に刺して、赤や黄色の(あめ)をかけてくれました。あとは(あめ)が固まるまで涼しい場所に置いておけば完成です。

「その間にお風呂に入るように」との厳命(げんめい)がおばあちゃんから下されたリューイは、しぶしぶお風呂に向かいました。
お風呂に入る前にチラッと居間を(のぞ)くと、おばあちゃんとユストは真剣(しんけん)な表情でなにやら話し込んでいました。黒魔術師のこと、赤ちゃんドラゴンのことなど二人には話さなければならないことがたくさんありました。
――大人は話が長いんだよなぁ。
もうあまり時間がないのに、おばあちゃんにユストを取られては(たま)りません。リューイは湯船(ゆぶね)()かるのももどかしく、すぐにお風呂から上がりました。
(はだか)のままバスタオルをなびかせて居間まで走っていくと、(あん)(じょう)、二人はまだしゃべっていました。
「ジャーン!」
リューイはおばあちゃんとユストの前に飛び出すと、バスタオルを広げてみせました。
しかし、二人は見向(みむ)きもしません。リューイはあの手この手を使ってなんとか二人の気を引こうとしましたが、大人(・・)()()をしている二人はまったく相手にしてくれませんでした。
「あ~あ、つまんないの。」
わざと大きな声で言ってみても反応しません。()ねたリューイは部屋の隅っこで二人に背を向けてパジャマを着ました。
――明日になったらユストは帰ってしまうのに…
リューイはなんとかしてユストの注意をひき、遊んでもらいたいと思いました。リューイはユストの注意をひきつける作戦をいろいろと考えましたが、あまり良い方法は考えつきませんでした。

結局、ふりだしに戻って(はだか)(おど)りをすることにしたリューイは、パジャマを脱ぐと、ユストの前でお尻をふりふりし始めました。
「ちんちん、ブ~ラ、ブラ~♪」
一部の方はご存知(ぞんじ)かもしれませんが、裸踊りはこのブラブラが非常に重要で、ブラブラさせることによって裸踊りの楽しさが倍増(ばいぞう)するのです。
「リューイっ!」
ユストは笑い出し、おばあちゃんはパジャマを持って()いかけてきました。おばあちゃんを()けながら(はだか)で走り回っていると、全身のウズウズが止まらなくなります。
「ちんちん、ブラブラ~♪」
「こらっ!いい加減にしなさい!」
おばあちゃんをからかいながら部屋中を走り回っていたリューイは、リューイは、ユストの(うし)ろに逃げ込んだところで、とうとう(つか)まってしまいました。
「ほら、(つか)まえたぞ!」
「キャー!」
ユストは(あば)れるリューイを(つか)まえるとファイアーマンズキャリーの要領(ようりょう)軽々(かるがる)と肩に(かつ)()げ、エアプレーンスピンをかけ始めました。
「キャー、助けて~♪」
肩に(かつ)がれたままグルグルと回されて、リューイは大喜びしました。こんなこと、リューイのお父さんだってしてくれたことがありません。
「やめろ~♪、はなせ~♪」
口では()めろ、(はな)せと言っているリューイですが、1ミリも嫌がっているようには見えず、それどころか(うれ)()ぎてユストの肩によだれを()らす始末(しまつ)です。
「あっ、こらっ!よだれを()らすな!」
(あせ)るユストの声が可笑(おか)しくて、リューイはさらに笑いが止まらなくなってしまいました。

そうこうしているうちに楽しい時間はあっという間に過ぎ、11時になってしまいました。
時計の針が11時を回ると、おばあちゃんも流石(さすが)にこれ以上は夜更(よふ)かしを認められませんでした。
しぶるリューイを子供部屋へと追い立てると、あとはユストにお願いしておばあちゃんも寝ることにしました。
子供部屋は居間の隣にありました。部屋の右と左にベッドが一台ずつ置いてあり、ベッドの枕元(まくらもと)にもそれぞれタンスが(ひと)(さお)ずつ置いてありました。リューイは右のベッド、ユストは左のベッドに寝ることにしました。

リューイがドアを閉めようとすると、どこからともなくベニーが現れてリューイの足に体を()りつけてきました。
「ニャー」
――忘れてた!ベニーもいたんだっけ…
ベニーは今まで暖炉(だんろ)の前にいたらしく、抱き上げると温まった体はくったりと柔らかく、毛皮はフワフワでした。リューイはベニーの柔らかい()(もう)に顔を(うず)めると、お()(さま)のような匂いを思い切り吸い込みました。
――んふ~、いい匂い!
しばし、ベニーのモフモフを堪能(たんのう)したリューイは、ベニーをベッドにそっと降ろしました。そして、ベニーをお布団の中に入れてあげると、頭を枕にのせ、顔だけが出るように掛け布団をそっと掛けてました。しかし、ベニーは何かが気に入らないらしく、するりとベッドから抜け出して、タンスの上に飛び乗ってしまいました。
――あー、逃げちゃった…
猫と一緒に寝ることが長年(ながねん)の夢だったリューイはちょっとがっかりしました。

けれども、ユストとおしゃべりを始めると、そんなことはすぐにどこかへいってしまいました。
リューイはユストに学校のことを話してきかせ、ユストはスクエアード公国(こうこく)のことについていろいろと教えてくれました。
ユストの話はとても面白くて、どこにあるのかもわからない遠い国の話にリューイの想像は(ふく)むばかりでした。
――いつかスクエアードに行ってみたいな…
時間が経つのも忘れて話していた二人ですが、いつしかリューイから相槌(あいづち)が返ってこなくなったことに気付いたユストがふと横を見ると、リューイは話している姿勢のまま眠りに落ちていました。

眠りに落ちる途中で、リューイは何かを必死で思い出そうとしていました。
――ええと、なんだっけ…何か大切なことを忘れているような…ああ、そうだ、悪者が攻めてくるんだっけ。
リューイは体に(から)みつく何かを手で払い除け、足で蹴りました。
ユストは立ち上がるとリューイのベッドに近づき、ベッドから出ている足を戻し、掛布団を掛け直してあげました。
――ユストがそばにいてくれるんだもん。何があっても、大丈夫。ムニャ、ムニャ、ムニャ…
リューイは安心して意識(いしき)手放(てばな)しました。

しかし、眠りに落ちたのも(つか)()、リューイの平安(へいあん)は突然、ベニーによって(やぶ)られました。
真夜中にタンスの上で目を覚ましたベニーは、飛び降りる場所を(さが)して部屋の中を見渡(みわた)しました。そして、飛び降りる位置、距離、衝撃(しょうげき)吸収性(きゅうしゅうせい)を目で(はか)ると、リューイのお腹めがけて迷わずダイブしました。
グフゥッ!
リューイの口から(うめ)(ごえ)ともゲップとつかない奇妙な音が()れました。
――べ、ベニー…これは昼間の復讐(ふくしゅう)か…
理由はともあれ、リューイはベニーとは二度と一緒に寝ないと心に(ちか)うのでした。

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