――子猫だったらいいな!
リューイは期待に胸を膨らませました。
三ヵ月ほど前、お隣の家のベニーが5匹の子猫を生みました。
リューイも見せてもらったのですが、初めて見た子猫はこの世の者とは思えないほどの可愛さでした。子猫はリューイの手の平に乗るくらいの大きさで、フワフワで、柔らかくて、軽くて、生きている毛玉のようでした。
――あの子たち、可愛いかったなぁ~
思い出しただけで、顔が綻んでしまいます。今はその子たちも大きくなり、5匹とも他所の家に引き取られてしまいました。
――ウチで飼えたらよかったのになあ。ちぇっ。
リューイはお母さんの猛反対を思い出しました。
――僕、ちゃんとお世話するって言ったのに…
リューイ、10歳。まだまだ、お母さんが怖いお年頃です。
リューイは脳裏に浮かんだお母さんの怖い顔を追い払うと、鳴き声を頼りにさらに森の中を進み続けました。
――だけど、もしも子猫だったらどうしよう。
歩きながらも、一抹の不安が脳裏を横切ります。家に連れて帰っても、お母さんが反対することは目に見えています。しかし、そこは10歳の男の子。先の事なんて考えられません。今は子猫の救出が優先です。
――きっと、なんとかなるさ。お母さんだって鬼ではないはず…たぶん…
一瞬、「捨ててらっしゃい!」というお母さんの声が聞こえてきたような気がして、リューイは頭をぶんぶんと振りました。
細い鳴き声を頼りに、10分ほど叢の中を進むと、リューイが思ったとおり、小さな小川の畔に出ました。小さい頃から慣れ親しんでいる森です。リューイがこの小川を知らない訳がありません。

清らかな水の中を、小魚が群れをなして泳いでいきます。小川は浅過ぎもせず、深過ぎもせず、魚を捕まえたり、おもちゃの船を浮かべたり、水車を回して遊ぶには恰好の遊び場でした。
しかし、今日は水遊びではなく、子猫の捜索が第一の目的です。リューイは水遊びをしたい欲求をぐっと抑えました。
子猫の鳴き声が先程よりも近く感じられます。
――間違いなく、この近くにいる!
リューイは確信を持ちました。捜索の手にも力が入ります。リューイは小川の畔に生えている小さな黄色い花をかき分けながら進みました。

ほどなくして、黄色の花の中に埋もれるようにして置かれた小さなカゴを見つけました。鳴き声は確かにこのカゴの中から聞こえています。
――やっと見つけた!
しかし、リューイがカゴに近づいた途端、カゴの中の生き物はうんともすんとも言わなくなってしまいました。
――怖がらないで、子猫ちゃん!僕は助けに来たんだよ!
リューイは期待に胸を膨らませながら、カゴを覆っている白い布をそっと持ち上げました。

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