「竜…」
リューイは呆気にとられておばあちゃんを見上げました。
「間違いないわ…きっと、そうよ。」
おばあちゃんは一人で呟いて、一人で頷いています。
「それにしても、いったいどこから来たのかしら…」
「ねえ、おばあちゃん、それ本当なの?この子は、本当に竜なの?」
リューイは椅子から立ち上がると、唾を飛ばしながら聞き返しました。唾が飛んでしまうのも無理はありません。だって、ドラゴンの赤ちゃんを拾ったのですから!
――拾ってきて良かった!
この子がドラゴンだとしたら、子猫じゃなくても充分です!リューイは1時間前の自分を全力で褒めてあげたいと思いました。竜の赤ちゃんを拾うなんて、今日はなんてラッキーなんでしょう!リューイは心の中でガッツポーズをしました。

おばあちゃんは眼鏡を外すと、額に手を押し当てました。
「これはやっぱり、ドラゴンだわ…種類にもよるけど、大人になったらすごく大きくなるわよ。」
ドラゴンの背中に乗って飛んでいる自分を想像して、リューイの胸は高鳴りました。
「やったー!カッコイイ!本物のドラゴンだ!すごいぞ!」
リューイはヘンテコな生き物を抱きかかえると、歓喜乱舞しました。ハズレだと思ったこの子は、めちゃくちゃ貴重種だったようです。
そんなリューイを、おばあちゃんは宥めるように言いました。
「リューイ、ドラゴンってすごく大きくなるのよ。大丈夫?最後まで責任を持って面倒みられる?」「うん、大丈夫!」
リューイはよく考えもせずに、即答しました。先程まで、おばあちゃんにこの子を押し付けようとしていたことなどすっかり忘れています。しかし、それも仕方がありません。目の前にいるのは、伝説の生き物なのですから!
リューイはテーブルの上に飛び乗ると、雄叫びを上げました。
「やったぞ~!ドラゴンだぁ~!うぉ~!」
まだ声の高いリューイの雄叫びは、子犬の遠吠えのようです。
おばあちゃんは呆れたように頭を振りました。
「リューイったら、バカな子ね。危ないから降りてらっしゃい。まったく……。そういうところ、パパの小さい頃にそっくりだわ。」

リューイはテーブルから下りると、大きな椅子を力いっぱい引きました。ギギーと重たい音がします。木こりだったおじいちゃんが作った椅子は、おじいちゃんの体に合わせて大きくて頑丈にできていました。そのせいで、子供のリューイにはちょっと重たいのです。
おばあちゃんは椅子に座ったリューイの肩を掴むと、溜息混じりに言いました。
「ねえ、リューイ、よく聞いて。」
おばあちゃんの顔は、いつになく真剣です。
「この子がドラゴンだとしたら、育てるのは本当に大変よ。それに何よりも、この子はまだ赤ちゃんで、すごく弱っているの。ちゃんと育つかどうかもわからないわ。」
「いやだよ!」
リューイは叫びました。
「いやだよ、死んじゃうなんて!さっき、拾ったばかりなのに!おばあちゃん、何とかして!」
その問いにおばあちゃんは答えられませんでした。ドラゴンに限ったことではなく、野生動物の赤ちゃんは育てるのが難しいのです。ましてや、ドラゴンともなれば、育て方を知っている人など何処にもいません。
先程までの喜びは何処へやら、リューイは力なく肩を落としました。言われてみれば確かに、ぐったりとしているように見えます。
それに、森の中ではずっと鳴いていたのに、今は「ミ」とも鳴きません。リューイは縋るようにおばあちゃんの顔を見詰めました。
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