収穫したサンザシの実をリューイたちが台所に持っていくと、おばあちゃんはそれをきれいに洗って、種を抜き、串に刺して、赤や黄色の飴をかけてくれました。あとは飴が固まるまで涼しい場所に置いておけば完成です。
「その間にお風呂に入るように」との厳命がおばあちゃんから下されたリューイは、しぶしぶお風呂に向かいました。
お風呂に入る前にチラッと居間を覗くと、おばあちゃんとユストは真剣な表情でなにやら話し込んでいました。黒魔術師のこと、赤ちゃんドラゴンのことなど二人には話さなければならないことがたくさんありました。
――大人は話が長いんだよなぁ。
もうあまり時間がないのに、おばあちゃんにユストを取られては堪りません。リューイは湯船に浸かるのももどかしく、すぐにお風呂から上がりました。
裸のままバスタオルをなびかせて居間まで走っていくと、案の定、二人はまだしゃべっていました。
「ジャーン!」
リューイはおばあちゃんとユストの前に飛び出すと、バスタオルを広げてみせました。
しかし、二人は見向きもしません。リューイはあの手この手を使ってなんとか二人の気を引こうとしましたが、大人の話をしている二人はまったく相手にしてくれませんでした。
「あ~あ、つまんないの。」
わざと大きな声で言ってみても反応しません。拗ねたリューイは部屋の隅っこで二人に背を向けてパジャマを着ました。
――明日になったらユストは帰ってしまうのに…
リューイはなんとかしてユストの注意をひき、遊んでもらいたいと思いました。リューイはユストの注意をひきつける作戦をいろいろと考えましたが、あまり良い方法は考えつきませんでした。
結局、ふりだしに戻って裸踊りをすることにしたリューイは、パジャマを脱ぐと、ユストの前でお尻をふりふりし始めました。
「ちんちん、ブ~ラ、ブラ~♪」
一部の方はご存知かもしれませんが、裸踊りはこのブラブラが非常に重要で、ブラブラさせることによって裸踊りの楽しさが倍増するのです。
「リューイっ!」
ユストは笑い出し、おばあちゃんはパジャマを持って追いかけてきました。おばあちゃんを避けながら裸で走り回っていると、全身のウズウズが止まらなくなります。
「ちんちん、ブラブラ~♪」
「こらっ!いい加減にしなさい!」
おばあちゃんをからかいながら部屋中を走り回っていたリューイは、リューイは、ユストの後ろに逃げ込んだところで、とうとう捕まってしまいました。
「ほら、捕まえたぞ!」
「キャー!」
ユストは暴れるリューイを捕まえるとファイアーマンズキャリーの要領で軽々と肩に担ぎ上げ、エアプレーンスピンをかけ始めました。
「キャー、助けて~♪」
肩に担がれたままグルグルと回されて、リューイは大喜びしました。こんなこと、リューイのお父さんだってしてくれたことがありません。
「やめろ~♪、はなせ~♪」
口では止めろ、放せと言っているリューイですが、1ミリも嫌がっているようには見えず、それどころか嬉し過ぎてユストの肩によだれを垂らす始末です。
「あっ、こらっ!よだれを垂らすな!」
焦るユストの声が可笑しくて、リューイはさらに笑いが止まらなくなってしまいました。
そうこうしているうちに楽しい時間はあっという間に過ぎ、11時になってしまいました。
時計の針が11時を回ると、おばあちゃんも流石にこれ以上は夜更かしを認められませんでした。
しぶるリューイを子供部屋へと追い立てると、あとはユストにお願いしておばあちゃんも寝ることにしました。
子供部屋は居間の隣にありました。部屋の右と左にベッドが一台ずつ置いてあり、ベッドの枕元にもそれぞれタンスが一棹ずつ置いてありました。リューイは右のベッド、ユストは左のベッドに寝ることにしました。
リューイがドアを閉めようとすると、どこからともなくベニーが現れてリューイの足に体を擦りつけてきました。
「ニャー」
――忘れてた!ベニーもいたんだっけ…
ベニーは今まで暖炉の前にいたらしく、抱き上げると温まった体はくったりと柔らかく、毛皮はフワフワでした。リューイはベニーの柔らかい被毛に顔を埋めると、お日様のような匂いを思い切り吸い込みました。
――んふ~、いい匂い!
しばし、ベニーのモフモフを堪能したリューイは、ベニーをベッドにそっと降ろしました。そして、ベニーをお布団の中に入れてあげると、頭を枕にのせ、顔だけが出るように掛け布団をそっと掛けてました。しかし、ベニーは何かが気に入らないらしく、するりとベッドから抜け出して、タンスの上に飛び乗ってしまいました。
――あー、逃げちゃった…
猫と一緒に寝ることが長年の夢だったリューイはちょっとがっかりしました。
けれども、ユストとおしゃべりを始めると、そんなことはすぐにどこかへいってしまいました。
リューイはユストに学校のことを話してきかせ、ユストはスクエアード公国のことについていろいろと教えてくれました。
ユストの話はとても面白くて、どこにあるのかもわからない遠い国の話にリューイの想像は膨むばかりでした。
――いつかスクエアードに行ってみたいな…
時間が経つのも忘れて話していた二人ですが、いつしかリューイから相槌が返ってこなくなったことに気付いたユストがふと横を見ると、リューイは話している姿勢のまま眠りに落ちていました。
眠りに落ちる途中で、リューイは何かを必死で思い出そうとしていました。
――ええと、なんだっけ…何か大切なことを忘れているような…ああ、そうだ、悪者が攻めてくるんだっけ。
リューイは体に絡みつく何かを手で払い除け、足で蹴りました。
ユストは立ち上がるとリューイのベッドに近づき、ベッドから出ている足を戻し、掛布団を掛け直してあげました。
――ユストがそばにいてくれるんだもん。何があっても、大丈夫。ムニャ、ムニャ、ムニャ…
リューイは安心して意識を手放しました。
しかし、眠りに落ちたのも束の間、リューイの平安は突然、ベニーによって破られました。
真夜中にタンスの上で目を覚ましたベニーは、飛び降りる場所を探して部屋の中を見渡しました。そして、飛び降りる位置、距離、衝撃吸収性を目で計ると、リューイのお腹めがけて迷わずダイブしました。
グフゥッ!
リューイの口から呻き声ともゲップとつかない奇妙な音が漏れました。
――べ、ベニー…これは昼間の復讐か…
理由はともあれ、リューイはベニーとは二度と一緒に寝ないと心に誓うのでした。


コメント